野生動物たちの生き方を知りたい ―データに基づく動物との共生―

准教授 山本誉士

動物研究の基本は「観察」です。しかし、動物をずっと観察し続けるのは大変であり、特に野外で自由に行動する野生動物は、私達が観察できる時間的・空間的な限界を容易に越えて移動します。例えば、スズメのお宿はどこか?町中に暮らすタヌキの寝床は?春にさえずる鳥たちは冬になるとどこに行くのか?遥か昔、アリストテレス(古代ギリシャの哲学者で博物学の始祖)の時代から、動物たちがどこに行くのか(いるのか)といったことに人々は興味を持っていました。近年はAIも発展し、一昔前の空想の世界が現実のものとなってきましたが、一方で私達は身近な動物のことですら、以外にも知らないことが多くあります。少し専門的な話をすると、絶滅危惧種の保全(どこを守ればいいのか?)や有害鳥獣管理(どうやって被害を防ぐのか?)においても、動物たちがどこをどのように利用するのかを知ることは必要不可欠です。


アラスカの海鳥繁殖地で行動観察をしている様子(左下)

では、どうしたら自由に移動する動物たちを観察することができるのでしょうか?頑張る!というのも一つの方法ですが、私はデータロガーと呼ばれる小さな記録計を動物たちに取り付けて、移動や行動を調べています。このような研究手法は「バイオロギング」と呼ばれます。1964年にアメリカの生物学者がキッチンタイマーを改良した小さな機器(後のデータロガー)を南極に生息するアザラシに装着して、潜水の深さと長さを世界で初めて明らかにしました。現在ではデータロガーは最小のもので1g以下と極小・軽量になり、哺乳類や鳥類のみならず、昆虫の行動追跡にも用いられています(詳しくは、http://japan-biologgingsci.org/home/)。


動物にデータロガーを装着した様子

さて、私はそんなデータロガーを用いて野生動物の行動・移動を追跡することで、主に環境と関連した彼らの空間利用の特徴を明らかにしています。例えば、これまでの研究では、オオミズナギドリという海鳥の空間分布を定量的に解析することで、「生態学的・生物学的に重要な海域(Ecologically or Biologically Significant marine Areas)」の選定に貢献したり、マゼランペンギンの非繁殖期の生息域を明らかにすることで、個体数減少に起因する人為的影響を明らかにしたりしてきました。最近は鳥類のみならず、哺乳類や魚類、イルカ類、ウミガメなどを対象に研究に取り組んでいます。また、動物の行動を計測・解析する手法を応用して、動物園や水族館で飼育動物の基礎生態解明や環境エンリッチメントに関する研究にも携わっています。


アルゼンチンで研究しているマゼランペンギン

足にデータロガーを装着して基礎生態を解明(動物福祉)

野生動物の保全・管理を戦略的かつ効率的におこなうには、データ解析に基づく客観的評価と意思決定が必要です。一方、私の研究のモットーは「自然や動物を視ること」です。現場感覚と定量的データ解析、その両方を大切にすることで、野生動物を含む生態系の理を理解し、人間社会と自然・動物の共生のあり方を探求しています。